
北海道の真冬に、暖房費0円で暮らせると思いますか?
僕の家がある北海道江別市は、最低気温が−25℃を下回る日もあります。そんな環境でも薪ストーブ1台で暖房費はほぼ0円。薪を割り火を焚く暮らしは手間もありますが、その代わりに得られる心地よさと学びがあります。
いま「高断熱・高気密」というワードばかりが強調され、断熱性能だけに目が向きがちです。ですが、本当に大事なのは「熱源と断熱性能の両方を考えること」なのです。
目次
■まず熱源から考えていますか?
■床暖房をすすめる私が、薪ストーブを選んだ理由
■薪ストーブを選ぶときの留意点
■薪ストーブの設置費用
■薪ストーブのデメリット
■薪について
■薪集めについて
■まず熱源をから考えていますか?

現在の寒冷地仕様の住宅で「寒い」ということは、ほとんどありません。断熱・気密性能はすでに一定水準を満たしているからです。
では、なぜ多くの人がさらに高性能を求めるのでしょうか。それは「寒さ対策」ではなく「月々の支払いをできるだけ抑える」ことが目的だからです。
住宅を計画するときに、熱源をしっかり考えていますか? 選択肢は意外と多いものです。
・プロパンガス
・都市ガス
・灯油のみ(IHコンロの場合)
・灯油+プロパンガス(ガスコンロの場合)
・オール電化
どれを選ぶかで、毎月の光熱費は大きく変わります。だからこそ、まずはコストパフォーマンスの良い熱源を選び、そのうえで予算に合わせた断熱・気密性能を計画することが大切です。結果として、その組み合わせが快適性と家計の両立につながります。
この記事でも熱源について書いています。→「吹き抜けはいる?いらない?」
■床暖房をすすめる私が、薪ストーブを選んだ理由

私がおすすめする暖房器具は「住宅断熱の正しい考え方と床暖房のすすめ」でも書いていますが「床暖房」です。
しかし自宅ではあえて、薪ストーブ1台で家全体を温める計画としました。その理由は次の通りです。
主な理由は、
・実験的に挑戦したかった
本当に薪ストーブ1台で家中を暖められるのかを試してみたかった。
・炎と暮らす心地よさ
炎の揺らぎを眺める時間を、日常に取り入れたかった。
・在宅ワークとの相性
自宅で仕事をしているため、1日中火の管理ができる環境だった。
私の家の断熱材は
・天井・GW300mm
・壁・GW105mm+負荷断熱20mm
・床・GW200mm
・サッシ・樹脂サッシLOW-Eガラス
UA値は北海道の標準的な仕様です。
外の最低気温-25度を下回る日もありますが、 薪ストーブ1台で暖房できています。
■薪ストーブを選ぶときの留意点

薪ストーブを導入する際には、いくつか重要な検討項目があります。順番に整理してみましょう。
1.メイン暖房か、サブ暖房か
床暖房と組み合わせて薪ストーブを設置するのが理想的ですが、その場合は暖房設備費用が通常の2倍以上になることもあります。
私の家のように「薪ストーブ1台で家全体を温める」場合は、ワンルームに近い間取りや空気の流れを考えた設計が欠かせません。ぜひ、計画段階で専門家に相談してください。
2.ブランド・メーカーの選択
・海外ブランド:種類が豊富だが、価格は高め。
・国内ブランド:選択肢は限られるが、コストを抑えやすい。
3.鋳物と鋼板か
・鋳物ストーブ:暖まるのに時間はかかるが、冷めにくく熱が持続。
・鋼板ストーブ:すぐ暖まるが冷めやすい。ガラス面積が大きくデザイン性が高い。
長時間の暖房性能を重視するなら、鋳物がおすすめです。
4.外気導入の有無
高気密住宅では、換気扇の影響で煙が逆流する恐れがあります。
・外気導入なし:換気扇を止める、窓を開けるなど運用で対応。
・外気導入あり:追加コストはかかるが、煙の逆流リスクを防げる。
5.炉台、炉壁の素材
煉瓦や石組み、タイル、鉄板など様々な素材があります。
デザイン性や掃除のしやすさ、ライフスタイルに応じ選ぶ必要があります。
6. 煙突の設置方法(壁出し or 天井出し)
・壁出しのメリット
屋根に障害物があっても設置できる
2階に煙突を貫通させなくてよい
2階のデッドスペースを避けられる
・天井出しのメリット
工事費が安い
上昇気流が強く、煙の逆流リスクが少ない
メンテナンスが容易
薪ストーブは「見た目の好み」だけで選ぶのではなく、熱源としての役割・設計との相性・暮らし方とのバランスを考えることが大切です。
■薪ストーブの設置費用

薪ストーブの設置費用は、仕様や施工内容によって大きく変わります。上記で挙げた検討項目を決めていかないと正確な費用はわかりません。
参考までに、私の家の仕様は次の通りです。
・日本ブランド:ホンマ製作所の鋼板製薪ストーブ (コストを抑えやすい)
・外気導入:なし (換気は運用で対応)
・炉台・炉壁:江別の米澤煉瓦(節約のため自分で施工)
・煙突:天井出し (工事費を抑えやく、メンテナンスが楽)
この仕様で、設置費用は100万円以下に収まりました。
一方で、海外ブランドや鋳物ストーブ、外気導入の追加、職人施工の炉台などを選ぶと、200万円以上になるケースも珍しくありません。
■薪ストーブのデメリット
薪ストーブは魅力も多い反面、暮らしに取り入れると次のような課題があります。
1.コスト面
・薪の購入費
1〜2月は1.5〜2立米を使うため、月4万円以上かかります。暖房をすべて薪で賄うと、一般的な暖房費と大差ありません。
・メンテナンス費
煙突掃除は最低でもシーズンごとに必要。道具は数千円で揃いますが、業者に依頼すれば費用がかさみます。自力で行う場合は落下事故に注意が必要です。
2. スペース・住環境への影響
・薪ストックスペースが必要になる。
屋外に十分な保管場所が必要です。詳しくは後述の「薪について」で説明します。
・虫のもちこみ
薪には虫が付いているため、室内に持ち込むことになります。虫が苦手な人には不向きです。
・煙や匂い
燃焼が不十分だと煙や匂いで迷惑になる可能性があります。正しく燃やす技術が必要です。
3. 使用上の不便さ
・暖まるまで時間がかかる
鋼板ストーブでも室内が快適になるまで1時間以上かかります。
・やけどリスク
本体は200℃前後まで熱くなるため、小さなお子様やペットがいる家庭は要注意。
・少しだけ暖房ができない。
一度火をつけるとすぐに消せないため、春や秋に「少しだけ暖めたい」ときには不便。私自身、この点を最も大きなデメリットと感じています。
薪ストーブのみで暖房する場合、春や秋はポータブル灯油ストーブやエアコン暖房などを検討した方が良いでしょう。
薪ストーブは「豊かさ」や「楽しさ」と引き換えに、費用・スペース・管理・ご近所への配慮など、いくつもの課題を抱えています。そのため導入を検討する際には、ライフスタイルに合うかどうかを冷静に見極めることが大切です。
■薪について

北海道でワンシーズンを薪ストーブだけで過ごすには、5立米以上の薪が必要です。
未乾燥薪を買って自宅で乾燥させる場合 → 最低2シーズン分=10立米以上を確保する必要があります。
・1立米の薪の目安 → 長さ40㎝の薪を横1.8m × 高さ1.5mに積んだ量です。
敷地内には大きな薪ストックスペースが不可欠です。
・薪の種類と特徴
1.針葉樹(例:マツ、スギ)
・火が付きやすい
・燃焼時間が短い
・急激に温度が上がるためストーブを傷めやすい
2.広葉樹(例:ナラ、イタヤ、イタヤカエデ)
・火が付きにくい
・燃焼時間が長い
・北海道ではナラ・イタヤが高級薪として扱われる
薪の価格目安(2024年現在)
・針葉樹 … 約18,000円/1立米
・安価な広葉樹 … 約25,000円/1立米
・ナラ・イタヤ … 約30,000円以上/1立米
また、状態によって価格が変わります。
・原木(丸太そのまま) → 最も安いが、玉切り・割り作業が必要
・玉切り(カット済み) → 手間が少し軽減
・割薪(すぐに使える状態) → 価格は高め
薪屋さんから購入する場合は夏までに売り切れる可能性があるため注意が必要です。
薪は「種類 × 量 × 乾燥度 × 保管場所」でコストも使い勝手も大きく変わります。導入前に必ず計画を立て、ストックスペースと購入時期の段取りを考えておくことが大切です。
■薪集めについて

薪を確保する方法のひとつに、近所とのつながりを活かすことがあります。
庭木の伐採や倉庫に眠っていた木材など、声をかけておくだけで意外と集まります。
私自身は建築設計の仕事柄、建築廃材(主に針葉樹)をいただくことも多く、この方法で暖房費はほぼ0円に抑えられています。
針葉樹や廃材は「使ってはいけない」とする記述も見かけますが、燃焼温度を適切に管理すれば問題なく利用可能です。
ただし以下は必ず避けてください
煤(すす)が溜まりやすく危険です。
・集成材
・塗料や接着剤付きの廃材
煤が多く発生し、煙突火災や煙の逆流につながる危険があります。
薪を集めて燃やす手間はかかりますが、その分「火を育てる」楽しみがあります。
我が家では薪ストーブ料理を楽しみながら炎を眺める時間が日常のご褒美になっています。
笠井啓介
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